エッグチェアは、今は亡きデンマークのデザイナー、アルネ・ヤコブセンの代表作とも言える作品です。エッグチェアはもともと、コペンハーゲンにあるSASロイヤルホテル(現ラディソン・ブル・ロイヤルホテル)のラウンジチェアとして制作されました。1950年代後半、ヤコブセンはこのホテルの建物からドアノブ、カトラリーにいたるまですべてをデザインし、エッグチェアもこのトータルなデザインソリューションの一部でした。
1950〜1960年代にかけて、ヤコブセンは家具デザインで大きな成功を収め、黄金期を迎えました。今日でも人気の衰えないセブンチェアやアントチェアなど、数々の合板スタッキングチェアをデザインしたのもこの時期です。
ヤコブセンは1958年にエッグチェアをデザインしました。彼はガレージにあった粘土を手に取り、椅子の基本形状を決めたと言われています。ヤコブセンはこの椅子を、当時前例のなかった発泡ウレタン成型で作ることにしました。ウレタンのシェルに革や布を張り、アルミの脚を取り付けました。1973年以降は、アルミの台座とスチールの脚を使うようになりました。
初期のエッグチェアには座面のクッションがなく、椅子の内部に厚いパッドが入っていました。リクライニングのオプションも後から加わりました。さらに後期になると、シェルがグラスファイバーで強化されるようになりました。
2008年に、エッグチェアは誕生50周年を迎えました。これを記念し、世界でたった999脚だけの限定モデルが生産されました。限定モデルには、革とスエードという2種類の素材が使われています。座面側はチョコレート・カラーの革、背面側は同色のスエード。2つの素材の鮮やかな対比が、この椅子の美しさを一段と際立たせています。
ヤコブセンの家具の多くは、当時も今も、デンマークの家具ブランド、フリッツ・ハンセンが生産しています。ヤコブセンの照明デザインは、同じくデンマークの照明器具ブランド、ルイス・ポールセンが生産の多くを担っています。わずかではありますが、他のメーカーが生産しているものもあります。ヤコブセンのデザインは家具のほかにも、水栓金具シリーズのVola、ドアノブ、トレー、時計やテキスタイルなど、多岐にわたります。
エッグチェアの未来的な形状には、今なおモダンという言葉がぴったりです。エッグチェアは今も世界中の家具好きたちのあいだで人気を誇り、特に初期のレザー・モデルは高額モデルとなっています。付属品のオットマンもヤコブセンのデザインです。現在、エッグチェアとオットマンは、いずれも60色の展開で販売されています。